大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成2年(ワ)9850号 判決

原告

廣瀬昌之

ほか二名

被告

井手口保志

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告廣瀬昌之に対し、金五〇六万八一三五円及びこれに対する平成三年一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告廣瀬昌彦、同廣瀬千代子に対し、各金五〇万円及びこれらに対する平成三年一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二五分し、その二四を原告らの負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一原告らの請求

被告らは、各自、原告廣瀬昌之に対し金一億二四〇六万七二一〇円、原告廣瀬昌彦及び原告廣瀬千代子に対し各金一〇〇〇万円、並びに右各金員に対する平成三年一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 平成元年二月三日午前八時四〇分ころ

(二) 場所 京都市下京区西七条北東野町一二九先丁字型交差点〔東西道路(以下「本件東西道路」という。)とそれに交わる南北道路(以下「本件南北道路」という。)により構成される。以下「本件交差点」という。〕

(三) 加害車両 普通貨物自動車(なにわ四四た七一一七号、以下「被告車」という。)

右運転者 被告井手口保志(以下「被告井手口」という。)

(四) 被害車両 自動二輪車(神戸た四四六〇号、以下「原告車」という。)

右運転者 原告廣瀬昌之(以下「原告昌之」という。)

(五) 事故態様 本件交差点を東方から北方へ向けて右折進行していた被告車と同交差点を西方から東方へ直進していた原告車とが衝突した。

2  責任原因

(一) 被告井手口

被告井手口は、被告車を運転して本件交差点を右折しようとしていたのであるから、対向車線から本件交差点へ直進して来る車の動静を注視し、その安全を確認しつつ運転する注意義務があるのにもかかわらず、これを怠り、漫然と右折進行した過失により、折から対面青信号に従い、対向車線を直進して来た原告車に被告車を衝突させ、本件事故を発生させた。

よつて、被告井手口は、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する義務がある。

(二) 被告一番食品株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告車を保有し、本件事故時、被告井手口をして被告車を運転させて業務に使用していた。

よつて、被告会社は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故により生じた人的損害を賠償する義務がある。

3  本件事故により生じた原告昌之(昭和四四年五月三一日生)の損害

(一) 原告昌之の受傷内容、治療経過及び後遺障害

(1) 原告昌之は、本件事故により、第一腰椎脱臼骨折・第七頸椎骨折・脊髄損傷の傷害を受け、次のとおり治療等を受けた。

(イ) 本件事故直後、原告昌之は、京都南病院へ搬送されたが、同病院では必要な処置が施せないため、同日中に六地蔵病院へ転送された。

(ロ) 六地蔵病院

平成元年二月三日から同年一〇月五日まで入院(二四五日間)

(ハ) 玉津福祉センターリハビリテーションセンター(以下「玉津リハビリセンター」という。)内付属病院

平成元年一〇月六日から同年一二月一日まで入院(五七日間)

同月二日から平成二年一一月三〇日まで通院(通院期間三六四日間、実通院日数二〇五日)

(2) 原告昌之は、右(1)記載のとおり治療を受けたが完治せず、体幹機能障害・両下肢完全麻痺の障害を残して、平成二年一〇月三一日、その症状が固定した。なお、右後遺障害に関して、自動車保険料率算定会調査事務所(以下「自算会」という。)において、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)の一級八号に該当する旨の事前認定を受けている。

(二) 損害額

(1) 治療費 四〇五万九八五一円

(2) 付添看護料 四一三六万五五五八円

(イ) 過去の分 三三〇万円

五〇〇〇円×三〇日×二二か月(平成元年二月三日から平成二年一二月一日まで)

(ロ) 将来の分 三八〇六万五五五八円

四〇〇〇円×三六五日×二六・〇七二三(平均余命五五年のホフマン係数)

(3) 入院雑費 七九万二〇〇〇円

一二〇〇円×三〇日×二二か月

(4) 入通院交通費 三〇万一八〇二円

原告昌之の父母である原告廣瀬昌彦(以下「原告昌彦」という。)及び原告廣瀬千代子(以下「原告千代子」という。)が要した入通院付添交通費は右金額である。

(5) 後遺障害逸失利益 六〇八四万三〇九六円

原告昌之が、平成二年四月から働くとして、就労可能年数は四七年であり、昭和六三年の短大卒男子年収は二五五万三〇〇〇円であつた。したがつて、後遺障害逸失利益は次の算式のとおりである。

二五五万三〇〇〇円×二三・八三二(四七年のホフマン係数)

(6) 家屋改造費等 一〇〇〇万円

その内訳は、家屋改造費六一六万五〇〇〇円、風呂場改造費四〇万三二七三円、身体障害者用運転装置費用一四万九三五〇円、車いす費用二一万二九四五円等である。

(7) 慰謝料 二四四〇万円

(イ) 入通院慰謝料 三四〇万円

(ロ) 後遺障害慰謝料 二一〇〇万円

(8) 以上、損害額合計は一億四一七六万二三〇七円となる。

4  本件事故により生じた原告昌彦及び同千代子の各慰謝料

原告昌彦及び同千代子は、同昌之の父母であり、本件事故により同昌之が負つた後遺障害等により、精神的苦痛を被り、それを金銭に評価すると、各一〇〇〇万円となる。

5  よつて、原告昌之は、被告井手口に対し不法行為に基づく損害賠償として、被告会社に対し自賠法三条に基づく損害賠償として、各金一億四一七六万二三〇七円の内金一億二四〇六万七二一〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成三年一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、同昌彦及び同千代子は、被告井手口に対し不法行為に基づく損害賠償として、被告会社に対し自賠法三条に基づく損害賠償として、各金一〇〇〇万円及びこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である平成三年一月一二日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告ら

(一) 請求原因1(本件事故の発生)の事実は、認める。

(二) 同3(原告昌之に生じた損害)(一)(1)の事実は、認める。

同3(一)(2)の事実中、原告昌之の後遺障害に関して、自算会において、等級表の一級八号に該当する旨の事前認定を受けている事実は認め、その余は不知ないし争う。

同3(二)の事実中、(1)(治療費)の事実は認め、その余は不知ないし争う。

(三) 同4(原告昌彦及び同千代子の各慰謝料)の事実は、不知ないし争う。

2  被告井手口

請求原因2(一)(被告井手口の過失)の事実は否認する。

被告井手口は、被告車を運転し、本件交差点を東から北へ右折進行すべく、対面青色信号に従い東方から進入し、同交差点中央において、対向直進車の通過を待つため一旦停止したが、その後、本件交差点の本件東西道路の対面信号が赤になり、対向直進車が停止線で停止したため、右折発進したところ、対面赤信号を無視して本件交差点内に西方から直進してきた原告昌之運転の原告車が転倒したまま滑走してきて、被告車の左側面に衝突したものであり、本件事故の原因は、専ら原告昌之が対面赤信号を無視して運転したことにある。

3  被告会社

請求原因2(二)(被告会社の運行供用者性)の事実は認める。

三  抗弁

1  被告会社(免責又は過失相殺)

(一) 被告井手口は、被告車を運転し、本件交差点を東から北へ右折進行すべく、対面青信号に従い東方から進入し、同交差点中央において、対向直進車の通過を待つため一旦停止したが、その後、本件交差点の本件東西道路の対面信号が赤になり、対向直進車が停止線で停止したため、右折発進したところ、対面赤信号を無視して本件交差点内に西方から直進してきた原告昌之運転の原告車が転倒したまま滑走してきて、被告車の左側面に衝突したものであり、本件事故の原因は、専ら原告昌之が対面赤信号を無視して運転したことにある。

(二) 被告会社及び被告井手口は被告車の運行に関し注意を怠らなかつた。

(三) 被告車には構造上の欠陥、機能上の障害はなかつた。

2  被告ら(損害の填補)

被告らは、原告昌之に対し、治療費等として四三七万〇〇九一円支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  原告ら

抗弁1(免責又は過失相殺)の事実は、否認ないし不知。

2  原告昌之

抗弁2(損害の填補)の事実は、認める。

理由

一  事故の発生(請求原因1の事実)

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告井手口の責任の有無(請求原因2(一)及び抗弁1(一)の事実)及び過失相殺

1  事故現場の状況等

証拠(甲一、乙一の一ないし一三、検乙一ないし四、被告井手口本人)によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、別紙図面のとおり、幅員約二四メートルの片側三車線の本件東西道路と幅員約一八・六メートルの片側三車線の本件南北道路とが交差する丁字型交差点内にあり、本件東西道路は、アスフアルトで舗装され、路面は平坦で、本件事故当時やや湿潤の状態で、制限速度は時速四〇キロメートルに規制されていた。

(二)  原告は、本件事故当時、黒いヘルメツトを被つていた。

2  事故態様

本件事故態様に関し、本件事故時の本件交差点における対面信号の色が赤であつたのか青であつたのが、及び本件衝突時に、被告車は停止していたのか否かに関し特に争いがあるので、以下検討する。

(一)  被告井手口は、被告車を運転し、本件交差点を東から北へ右折進行すべく、対面青信号に従い東方から進入したが、本件事故時には、対向第一車線(道路の北側から第一車線、第二車線、第三車線という。)には駐車車両があつたが、朝のラツシユ時であり、対向第二車線、第三車線の直進車が途切れないので、同交差点中央付近(別紙図面〈1〉点)において、対向直進車が途切れるのを待つため一旦停止していたところ、その後、対向直進車が停止線で停止したので、道を譲つてくれたのかと思い、同図面の信号〈A〉(以下「本件信号〈A〉」という。)を見ると、赤であつたので、右折発進したが、その際、停止している対向直進車の脇の方から何か黒いもやもやしたものが飛び出してきたような感じがし、かつその時、被告車の助手席に同乗していた井上和良(以下「井上」という。)が「危い」と叫んだので、ブレーキを踏んで被告車を停止させたが、しばらくたつた後、被告車に激しい衝撃があつた旨供述する。また、井上証人は、被告井手口の運転する被告車に同乗し、東方から本件交差点に差しかかつたところ、対向第一車線には駐車車両があつたが、本件交差点を東から北へ右折進行するには、対向第二、第三車線の直進車が途切れていないので、同図面〈1〉点において被告車が先頭で停止していた際、対向第二車線の停止線に茶色の乗用車が停止し、第三車線の停止線に白色のボンゴ様の軽の営業車が停止したので、本件信号〈A〉を見ると、赤表示であり、その直後に被告車が右折発進したところ、対向第二車線で停止している車両の北横を通つて、バイクが停止線を越えて東方へ走行してきたので、「あつ」と声を出し、その声に驚いて被告井手口はブレーキを踏んだようであり、被告車はすぐに停止したが、バイクは南寄りに方向を変えつつ急ブレーキをかけたものの転倒してしまい、運転手は投げ飛ばされ、バイクと運転手が分離した状態で被告車に衝突した旨証言する。

右両者の供述は、被告車が、本件交差点を右折するため、同図面〈1〉点において停止したこと、その時、対向第一車線には駐車車両があつたが、対向第二、第三車線は直進車が途切れることがなかつたこと、その後、対向第二、第三車線の停止線に対向直進車が停止したこと、その時本件信号〈A〉は赤を表示していたこと、そして、被告車が右折進行を開始したところ、対向車線を原告車が走行してきたため、被告井手口がブレーキをかけ停止したこと、その後少し間があつて原告車が被告車に衝突したことなど基本的部分で一致している。このことに加え、停止している対向直進車の脇の方から何か黒いもやもやしたものが飛び出してきたような感じがするとの被告井手口の供述は、原告昌之が本件事故時に被つていたヘルメツトの色が黒色であることと符合すること、井上証人の対向第二、第三車線の停止線に停止した車両に関する証言は車両の種類及び色についてまで証言する具体的なものであること、他方、被告井手口は、井上が「危い」と叫んだ旨供述するのに対し、井上証人は、「あつ」と叫んだ旨証言していること、被告井手口は、原告車が転倒したところは見ていないと供述するのに対し、井上証人は、原告車が転倒してから原告及び原告車が被告車に衝突するまでを詳細に証言していること、被告井手口は原告車を見たと供述するのではなく、何か黒いもやもやしたものが飛び出してきたような感じがすると供述していること等に照らすと、被告井手口と井上証人とが供述を合わせていたとは考え難く、被告井手口の供述及び井上証人の証言は、右基本的部分においては概ね信用することができる。

したがつて、証拠(乙一の一ないし一三、井上証人、被告井手口本人)によれば、被告井手口は、被告車を運転し、本件交差点を東から北へ右折進行すべく、対面青信号に従い東方から進入したが、本件事故時は、朝のラツシユ時であり、対向第二車線、第三車線を走行する車が途切れないので、同交差点中央付近(別紙図面〈1〉点)において、対向直進車が途切れるのを待つため一旦停止していたが、その後、対向直進車が第二、第三車線の停止線で停止し、本件信号〈A〉が赤であつたので、右折発進したところ、原告車が右停止車両の脇を通つて東方へ進行してきたため、ブレーキを踏んだが、急ブレーキをかけて転倒した原告車が被告車に別紙図面〈×〉点で衝突した事実が認められる。また甲第二ないし第六号証及び中原証言によれば、本件衝突時、被告車は停止しておらず、進行していた事実が認められるが、右井上証言及び被告井手口本人尋問の結果に照らすと、被告車は進行していたとはいえ、停止する直前であつたことが認められる。

なお、原告らは、本件信号〈A〉は青矢印付き信号ではないのにもかかわらず、井上証人が、本件事故時、本件信号〈A〉は青矢印が出ていなかつた旨証言したことを根拠に、同証人は、同信号を確認していなかつたはずであると主張するが、同証言は、同信号が青矢印の出る信号ではない旨証言したものと解されるので、原告らの主張は採用することができない。また、本件事故現場に残された原告車の擦過痕(乙一の二)に照らすと、同証人の原告車の本件交差点への進入経路に関する証言は客観的事実に反する嫌いはあるが、原告車の進入状況を目撃し得たのは瞬時であり、その認識が細部において不正確になるのは致し方がない面がある。したがつて、それをもつて同証人の前記証言の信用性に影響を及ぼすとは解し難い。

(二)  右認定に関し、原告らは、本件事故時の原告昌之の対面信号は青であつた旨主張するので、以下検討する。

確かに、甲第七号証及び原告昌彦本人尋問の結果には、原告昌之が、事故当日、六地蔵病院で手術を受けた直後、原告昌彦に、対面信号の色は青であつた旨述べたとの記載及び供述がある。しかし、同号証によれば、原告昌之は、同時に「事故の件は記憶がない」、「横断歩道の上ぐらいで黄に変わつたように思うがはつきりしない」などと述べたともされており、同原告の本件事故に関する認識・記憶の正確性には疑いをさしはさむ余地がある。また、甲第七号証の記載は、まとめて平成元年二月二六日に書いたとはいえ、原告昌之の右供述をメモしたはずの部分が、二月三日の欄以外の部分にメモしてあること及び本件事故後本訴訟になるまで、原告昌彦が、被告井手口との交渉過程において、原告昌之が右供述をしたことを述べて同人の対面信号の色が青であつた旨主張した形跡は、本件全証拠を精査しても伺われないことに照らすと、右各証拠はにわかに信用できない。

3  本件事故時、転倒する直前の原告車の速度は、転倒後、原告車が被告車に衝突するまで約二〇メートル滑走していること(乙一の二)、被告車の損傷の程度は大破であること(甲二、乙一の一)、中原証人は原告車の速度を時速約六三・九メートルであると推認していること(甲二、四)及び弁論の全趣旨に照らすと、時速六〇キロメートルを超えるものであつたことが認められる。

4  以上によれば、被告井手口には、右折のため対面青信号に従い本件交差点の中央付近まで進行し停止した後、対面信号が赤に変わつてから右折を開始した際、対面直進車が第二、第三車線に停止したことに気を許し、他の車両の有無、動静に対する確認が不十分なまま右折進行した過失があるが、他方、原告昌之は、対面信号が赤であり、かつ、同方向を直進していた車両が停止線で一時停止したにもかかわらず本件交差点に進入していること及び制限速度を少なくとも二〇キロメートル超過した過失がある。両者の過失を比較すると、原告昌之の過失の方がより重大であり、同原告と被告井手口の過失割合は九対一と認めるのが相当である。

三  被告会社の責任(請求原因2(二))

請求原因2(二)の事実は、当事者間に争いがない。

四  本件事故により生じた原告昌之の損害(請求原因3)

1  原告昌之の受傷内容、治療経過(請求原因3(一)(1))

請求原因3(一)(1)の事実は、当事者間に争いがない。更に、証拠(甲一一の一、原告昌彦本人)によれば、原告昌之は、本件事故による受傷直後から両下肢完全麻痺の状態となり、六地蔵病院において、頸椎と脊髄の手術をそれぞれ一回受けたことが認められる。

2  原告昌之の後遺障害(請求原因3(一)(2))

原告の前記傷害は完治せず、証拠(甲一一の一及び二、甲一二及び二〇、原告昌彦本人)によれば、体幹機能障害・両下肢完全麻痺の障害を残して、平成二年一〇月三一日、その症状が固定(当時原告の年齢二一歳)したことが認められ、右後遺障害に関し、自算会の査定において、等級表の一級八号に該当する旨の事前認定を受けていることは、当事者間に争いがない。

3  右認定事実を前提に、原告昌之の損害額(請求原因3(二))を検討する。

(一)  治療費 四〇五万九八五一円(主張額同額)

請求原因3(二)(1)(治療費)の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  病院での付添費 〇円(主張額三三〇万円)

前記認定の原告昌之の受傷内容、治療経過に照らしても、原告昌之の症状の程度は具体的にどのような経過をたどつたのかが明らかではなく、更に、六地蔵病院や玉津リハビリセンター内付属病院での看護状態がどのようなものであつたのかも明らかではない以上、具体的に原告昌之のどのような症状が付添看護を要する状態にあつたのかが明らかにされているとは認定し得ない。したがつて、右病院入院中の付添費を認めることはできない。

(三)  自宅での付添介護料 一四三〇万〇七〇〇円(主張額三八〇六万五五五八円)

退院後の自宅介護に関しては、前記認定の受傷内容、治療経過及び後遺障害の内容・程度、特に玉津リハビリセンター内付属病院の医師は、日常の環境では介助を要する旨の意見を述べていること(甲一二)を考慮すると、原告昌之は、同病院退院(平成元年一二月一日)後、自宅での介護が必要であるが、同人はシヤツやズボンは自分で着脱ができ、装具や車椅子の使用により自分で立つことや屋内外を移動することも可能であること等(甲一一の二)を考慮すると、右介護の程度は極度に重い負担を要するとまではいえないことが認められる。したがつて、介護費用としては一日あたり一五〇〇円と認めるのが相当である。

そして、自宅での介護が必要な期間は、同原告の症状の改善の見込みはない旨の医師の意見(甲一二)及び右退院時の原告昌之の年齢は二〇歳であるところ、右時点での同人の平均余命は五六年であること(甲二三)に照らすと、自宅介護の必要な期間は五六年間であると認めるのが相当である。

そこで、原告昌之が現実に自宅に居た期間を考えてみるに、原告らは「原告昌之は、平成二年一二月以降、岡山県吉備町所在の国立職業訓練所へ移り、現在、車椅子による職業訓練に努めている」旨の主張をしていることから、右時期以降は、同人は自宅に居なかつたことが推認され、そして同人が自宅に帰つて来たのは、原告らが原告昌之のために自宅を改造したのが平成三年一二月ころであること(甲一五、二二)からして、平成四年一月ころであると推認するのが相当である。すると、同原告は、平成元年一二月から一年間及び平成四年一月から五四年間にわたり家族の介護を要すると認めるのが相当である。

右事実を前提にして、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、右介護料の本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかである平成三年一月一二日の現価を計算すると、次の算式のとおりとなる。

平成元年一二月一日から平成二年一一月三〇日までの分

一五〇〇円×三六五日=五四万七五〇〇円

平成四年一月一日以降五四年間の分

一五〇〇円×三六五日×〔二六・〇七二-〇・九五二(五五年ホフマン係数-一年ホフマン係数)〕=一三七五万三二〇〇円

(四)  入院雑費 三六万二四〇〇円(主張額七九万二〇〇〇円)

前記認定のとおり、原告昌之は、三〇二日間入院しているところ、その間の入院雑費は一日当たり少なくとも原告ら主張の一二〇〇円と認めるのが相当であるから、入院雑費は右金額となる。

(五)  入通院交通費 〇円(主張額三〇万一八〇二円)

原告らは、原告昌彦及び同千代子が要した付添または見舞いのための交通費は三〇万一八二〇円であると主張し、その証拠として、甲第一三及び第一四号証を提出するが、前記判断のとおり病院付添の必要性は認められず、また右証拠だけでは見舞いに行つたことと要した交通費との関連が明らかではない。したがつて、原告の右主張を認めることはできない。

(六)  後遺障害逸失利益等 六〇八四万三〇九六円(主張額同額)

証拠(甲一二、原告昌彦本人)によれば、原告昌之(昭和四四年五月三一日生)は、本件事故当時(平成元年二月三日)京都科学技術自動車整備専門学校一年生在学中の健康な男子であり、翌年三月には同専門学校を卒業し、就業する予定であつたことが認められる。また平成元年の賃金センサス第一巻・第一表・産業計・企業規模計・高専短大卒(原告昌之主張)・男子労働者の二〇歳から二四歳までの平均賃金は二六四万四九〇〇円であることは当裁判所にとつて顕著な事実である。したがつて、右事実を総合すれば、同人は平成二年三月には右専門学校を卒業し、同年四月以降の同人の年収は、原告ら主張の二五五万三〇〇〇円を下回らないものと解するのが相当である。そうすると、原告昌之は、平成二年四月(満二〇歳)以降、本件事故に遭わなければ六七歳までの四七年間にわたり就労が可能であり、その間に少なくとも平均して右金額程度の年収を得ことができたものと推認される。

また前記認定の原告昌之の受傷内容及び程度、治療経過、後遺障害の内容及び程度に症状固定時(平成二年一〇月三一日)二一歳という同人の年齢並びに弁論の全趣旨を併せ考えると、原告は、同年四月から右症状固定日までの労働可能性は認められず、また右症状固定日から稼働可能と推認される六七歳に達するまでの四六年間を通じて、その労働能力を完全に喪失したと認めるのが相当である。

そうすると、原告昌之は、本件事故に遭つたことにより、平成二年四月以降六七歳になるまでの四七年間にわたり労働が不能となつたのであるから、その間に少なくとも平均して右金額程度の損害を被るものと推認されるので、その額を基礎として、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、同人の逸失利益の本件訴状送達の日の翌日である平成三年一月一二日の現価を計算すると、次の算式のとおりとなり、少なくとも原告昌之の主張額六〇八四万三〇九六円は認められる。

平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの分

二五五万三〇〇〇円

平成三年四月一日以降四六年間の分

二五五万三〇〇〇円×二三・五三三(四六年ホフマン係数)=六〇〇七万九七四九円

(七)  家屋改造費等 一八一万六二一八円(主張額一〇〇〇万円)

(1) 家屋改造費 一六〇万三二七三円(主張額六五六万八二七三円)

前記認定の原告昌之の受傷の内容、後遺障害の程度に加え、甲第一五証、第一六号証、原告昌彦本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に照らすと、原告昌之の日常生活の支障を少なくするために、家屋改造を施す必要性が生じ、玄関部分にスロープをつけ、風呂場及び便所を改造し、右風呂場改造費として四〇万三二七三円要したことが認められ、更にその他の家屋改造費として一二〇万円要したと認めるのが相当である。

(2) 身体障害者用運転装置費用 〇円(主張額一四万九三五〇円)

原告昌之が、自動車を運転していることや身体障害者用運転装置とはいかなるものであるのかについての立証がなされていない以上、右費用を、本件事故による損害と認めることはできない。

(3) 車椅子費用等 二一万二九四五円(主張額同額)

前記認定の原告昌之の後遺障害の内容・程度に加え、原告昌彦の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に照らすと、原告昌之の歩行を助けるために両下肢装具が必要であることが認められ、更に甲第一八号証によれば、同人が両下肢装具の購入費用として二一万二九四五円支出したことが認められる。

(八)  慰謝料 一三〇〇万円(主張額二四四〇万円)

前記認定の原告の受傷内容、治療経過、後遺障害の内容及び程度並びに年齢、その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すれば、本件事故によつて原告が受けた精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料としては、一三〇〇万円〔入通院慰謝料三〇〇万円(主張額三四〇万円)、後遺障害慰謝料一〇〇〇万円(主張額二一〇〇万円)〕が相当である。

(九)  以上、原告昌之の損害額合計は九四三八万円二二六五円(主張額一億四一七六万二三〇七円)となる。

五  本件事故により生じた原告昌彦及び同千代子の各慰謝料(請求原因4)各五〇〇万円(請求額各一〇〇〇万円)

前記認定の原告昌之の受傷内容、治療経過、後遺障害の内容・程度及び年齢に原告昌彦及び同千代子は同昌之の両親であること(原告昌彦本人)併せ鑑みると、原告昌彦及び同千代子は、本件事故により同昌之が負つた後遺障害により、精神的苦痛を被りそれに対する慰謝料としては各五〇〇万円が相当である。

六  過失相殺

前記二で認定した過失割合からして、以上認定の原告らの損害額合計からそれぞれ九割を控除すると、被告ら各自に請求可能な損害額は、原告昌之が九四三万八二二六円(一円未満切り捨て)、同昌彦及び同千代子が各五〇万円となる。

七  損害の填補(抗弁2)

抗弁2の事実は当事者間に争いがない。

よつて、四三七万〇〇九一円を損害の填補として前記認定の原告昌之の損害額から控除すると、同人の残損害額は五〇六万八一三五円となる。

八  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告らに対し、原告昌之が金五〇六万八一三五円、同昌彦及び同千代子が各金五〇万円並びにこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である平成三年一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、この限度で認容することとし、その余の請求は理由がないのでいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林泰民 大沼洋一 中島栄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例